幸子
第一章
お手伝いさんのえもやんは、灰色と赤色のストライプの地味な和服をユサユサ揺らしながら
幸子の為に、柳ごおりでできた熱い弁当箱を持って
急ぎ足で幸子のいる学校に向かっている
えもやんは、学校に着くと、1階にいる幸子の教室の窓へ
「幸子お嬢様!!」と声をかける
幸子は急ぎ足で、窓の所に行き
えもやんから熱い弁当箱を貰う
空襲の日
幸子は、父と母と5人兄弟と一緒に
顔をゆがめて
最近できた防空壕へと
汗をカキカキ走る
えもやんは幸子の大事なお人形を家に取りに帰る
それが運命の分かれ道
爆撃が始まり
幸子たちは辛くも防空壕に入る
そこにはえもやんはいない
「えもやーん!!えもやーん!!」と幸子は大声で叫ぶが
えもやんはいない
空襲が明けた朝
家に帰る
いつも学校に通う道の脇の小川には
男も女も、赤ん坊から年寄りまで
死体となって、プカプカ浮いている
その中に、幸子は灰色と赤色のストライプの地味な和服のえもやんを見つける
そう、大好きなえもやんは死んだのだ
第二章
ぎゅうぎゅう詰めの疎開列車で幸子は母の田舎の大分に向かう
父と母に別れ
5人兄弟
一つのボックスシートに寝ている
疎開先に着いたら
なんと大勢の従兄がいるのだ
幸子の都会の赤い革靴と綺麗なおべべは
投げられた田んぼの泥でまっ黒け
いじめられてなんぼのものだ
それでも醤油屋の大広間で10人の兄弟従兄と、芋の蔓や、いなごを食べる
アメリカのグラマン戦闘機が
田舎道を気まぐれに自動射撃するときには
田舎道で10人の兄弟従兄と戦闘機に向かって「来い!!」と挑発して
機銃を撃ちながら戦闘機が猛スピードでエンジンをうならせてやってくると
古代人の石積みの墓の中に隠れて戦闘機を戸惑わせる
戦闘機はただ、古代人の石の墓の表面を
バババと撃つだけ
醤油屋の隣に住む中学生のエジマ君と幸子は
グラマン戦闘機と戦った同じ田舎道で
二人きりで
たわいもない話をしながら
美しい夕陽をバックに尋常小学校から夕方帰ってくる
初恋か?
夜、北の空が赤くなった
北九州市が燃えているのだ
何万人もの命がいなくなった
エジマ君は、神風特攻隊に志願した
父や母、弟や妹、家族を守る為
出陣の日
エジマ君は黒いキャンディーをなめさせられ
意識は朦朧となり、死ぬのは怖くなくなった
宇佐神宮にお参りした
赤い硬直した顔で、特攻隊は一列に並びザクザクと行進した
エジマ君の母は、特攻機の出陣を、気丈にも見ていたが
意識が朦朧となり、その場に倒れこんだ
幸子はエジマ君の特攻機がプルンプルンと空に舞い上がっていくのを見ていた
そう、エジマ君は帰って来なかった
第三章
夏の暑い日
近所の沢で蟹取りをしていると
大人たちがラジオの前に集まっていた
戦争が終わったのだ
妙に空が明るく見え、心が軽くなった
夜は裸電球が初めてつけられた
夕方、醤油屋に向かって女の人が
トボトボ重い荷物をしょって歩いて来る
母が帰って来たのだ
その後ろを醤油屋に向かって男の人が
トボトボ重い荷物をしょって歩いて来る
父も帰って来たのだ
幸子は醤油屋の玄関先で、母と父に交互に抱き付いた
終わった
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