夜の散歩
公園で木々が騒いでいる
誰かが、僕のうわさ話をしている
萎縮してしまった僕はそれが気になる
水銀灯の光で木々の話し声はさらに高くなる
昼間の強烈な太陽とは違い
夜はくつろげるのだろうか
犬を連れたパンタロン姿の少女と大人がボールで遊んでいる
犬が僕の足に鼻を近づけ、クンクンとうなる
ボールが飛び交う
平和なひととき
涙が出てくる
顔をそむける
でも僕は出発しなければならない
銀座でも新宿でも、どこへでもいこう
木々の笑い声も人の笑い声も消えた
ヘッドライトは無数
赤,白,黄の点滅
オフィス街へ直行しようよ
したたる水と
緑の泥
都市の静寂を持った水をくぐり抜けて
ネオンは輝き
ビルは三倍の影を落とす
サーチライトとレーザー
青い光
青い光が頭の中で交錯する
ホラ!
新しい人間がいただろう
ホラ!
二人の人間がいただろう
後ろから中年の女がついてくる
しだいに明るくなり
地下鉄の工事現場で
後ろの女と少しの間別れる
サーチライトの根源はここだ
昼間の明るさだ
水田の匂いを漂わせ
田舎の匂いを漂わせ
しだいに暗くなり
女がしつこく後ろからついてくる
しだいに眠くなり
心は妙に静かになる
静かだ
信号が変わる
そのたびにバイクが先頭にたつ
ハチのごとく雷鳴をとどろかせ
そのジャンプ力でもって
銀座へ突進していった
信号が赤になった
後ろの女は僕に追いつき
不吉な質問をした
「今、何時ですか?」
「九時ジャストです」
「朝日会館は何時までやっているか御存じですか?」
「いいえ」
「失礼しました」
信号が青になった
女は先に行ってしまう
和服を着ていることに今さらながら驚いた
なぜか静寂の中にいる
また、暴走族が道にあふれる
銀座の明かりは一段と輝き
ガードの上の列車の光は切れ目ない
芝生の方向で放尿の音がする
ハハーン、酔っ払いだな
角に朝日会館という文字がライトに照らされ、浮き出している
心は沈んできた
無意識に足が体を運ぶ
僕は光の中へゆく勇気がない
こんな服を着ていては
それに、その光で自分が完全に照らされ、ひからびるのを恐れる
光は恐怖だ
自分をさらけ出すのが怖い
僕は道を左にとった
深い森と高層ビルの間の道をとった
対称的な世界だ
静かだ
会話は一回きり
若者の集団と
会う人もまれで
人々は暗闇にいて、互いの姿を認められない
一人だけ外人を見た
谷間からは
列車の明かりが絶え間なくうつり
無味乾燥になる
大きな大きなビル
興奮は心の中で、完全に氷となった
冷えた体と頭
かすんだビル
うずくまる男
あせっている車の運転手
ビル工事
何億もの人間が通った橋
何百年も前の燈籠
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頭がクラクラし
体がよたる
フラフラ
頭痛がして
青い天をかける光が交錯する
青い光は目前にある
体がフラフラ
フーアフーア
左に曲がって
急な坂道
フーアフーア
フーアフーア
館が浮かび上がり
下のハイウェイを圧迫する
に兵士の亡霊だ!
亡霊だ!
正面にいると危険だ!
駆けろ!
駆けろ!
陸橋を早く渡れ!
逃げろ!
逃げろ!
心臓は止まらない
目は赤く染まり
ぞうりはすり切れた
一息つく暇もなかった
脈拍も止まらない
ここはどこだ
森林にかこまれた静かな所だ
また
静寂に戻る
少しの恐怖感と
少しの頭痛がする
ちょっと休んでみよう
横になると星はみえない
地面の冷たさが身にこたえ
僕の肉体も冷えてきた
星はない
土は体を冷やす
かたわらに
トラックから落ちた花がある
開店祝いの花がある
(第一ホールか…)
その巨大な造花はビニールに包まれ
露がその上をはう
造花は冷えてくる
木々が騒いでいる
冷えてくる
冷えてくる
頭は混乱したまま冷えてくる