私のフォレストガンプ
小さい時
重い病での入院
夜になると同じ部屋の子は黒い革のラジオを聞き
子供たちは
シーツをかぶって
廊下でオバケごっこ
消灯のあと
誘導灯だけが光り
神秘的な風景がよみがえる
私は、仲間に加わりたいが
恥ずかしくて加われない
副作用で自由を奪われ
歩くことさえも出来ない
そして看護婦がやって来て
お化けごっこはおしまい
重いふとんをベッドから落とし
引き上げる力もないので
ナースコールで
看護婦に来てもらい
ふとんをベッドの上にあげてもらう
「くずやさん」と私のことを呼ぶ
おじいさんと同じ部屋
その妻であるおばあさんは丹前を着て
いつもおじいさんのそばにいる
夜はおじいさんのベットの下にもぐり込んで
底の浅い木の箱の中に寝る
いつもおじいさんと一緒
苛められ不登校
大変不幸せな日々
仲間も友達もいない
でも、そこに行くと
ハートに満ちた子供たち
初めこそジャブがあったが
こんなに楽しいところ
半日に及ぶ、背中を開いて背骨に金属の棒を固定する手術
「心に太陽を持って」退院して、強く生きていく
ちょっと気難しいシーちゃんを知り
顔をしかめつらして、病棟から病棟へと毎日徘徊する
暗く貧しい農家
藁屋根のみすぼらしい今にも崩れそうな農家
隣の子と幼遊びをしている
幼く貧しく
平和な日々
犬と戯れている
でもそれは今日でおしまい
もうじき学校もおしまい
ここで暮らすのもおしまい
今日売りに出される
いやらしい人買いがやってきて買われた
父と母は、貰った札束を数えては微笑んでいる
さよなら
何時間も列車に乗ってたどり着いたのは
大きな街
ここで鍛えられ 殴られ 水をかけられ 外に放り出されて生きていく
人と巡り会い
商家は燃え 人は死んだ
赤ん坊を抱え焼け跡から少しずつ立ち上がる
絶対にどんなことがあろうと生きてやる
そう心に誓う
簡単な祝言をして新たな人と生きていく
東北の駅前
卒業したばかりの男女
激励ののぼりが立ち、市長があいさつをする
それぞれ同級生と木の椅子のボックスに座り
緊張してほほが赤くなる
この列車は、昭和30年の東京へ向かう集団就職列車
列車は少しずつ動き出し
父と母も思い切り日の丸をふる
もう会えない
木の椅子のボックスには親しい友だち3人
和気藹々と夜行列車で
期待と不安が1つになって
ひと夜を明かす
終着駅で仲間と
迎えが来るのを談笑して待つ
父と母が用意してくれた弁当はもう底をつき
再び戻って新たな蓄えを貰うことはできない
それを最後の糧にして一人で生きていく
迎えの人が来て一人また一人と友達は引きとられて行き
最後に、見も知らぬ所で、一人ポッチで立っている
そして迎えの会社の社長がやってきた
新たな出会いの始まり
連れていかれた工場の上に新たな住まい
四畳半一間だが青空が見え
隣人が見える出窓もある
さびしいが希望に燃えている
あの時は未来があった
息子がやってきた 同じ15歳
運命の人となる
昭和45年の白い東京
ヤンタン東京やパックインミュージックを寝床のラジオで聞き
2月の冷たい風が吹き抜ける
大学の合格発表の日 ボードの前で制服姿で自分の番号を探す
あった!!
父と母に家に帰りそれを知らせ
ささやかなお祝い
制服で固められた世界から飛び立ち家族と離れ
サークル活動や学生運動のたて看の呼びかけを聞きながら
古ぼけた校舎を入っていく
埃っぽい 黄色い春の日差しがしみだらけのガラスを通して
プロコロホルムの青い影のエレクトーンの演奏が聞こえてくる
それがどこからか聞こえてくるのか 埃っぽい黄色い光の中を少しずつ進んでいくと
教室の前で その青い影の音は大きくなり
人がいた
彼は心を射抜く
ザ・タイガースのシーザイドバウンド 恋のCCAをラジオで聞きながら
親友たちと夏休みの海水浴場
同棲生活は神田川の世界
デモ隊は機動隊に突入して放水車からの強い水圧と、催涙弾の雨嵐を受ける
手に持つ竹やりは撓り ちりぢりばらばらになる
強く手を握り離れないようにするが、やがて手は離れ奴は連行され
お互いの名前を強く叫んだが もう視界から消えていった
命からがら戦場から去り
竹竿を放り投げ
ヘルメットを脱ぎ去り
それを道端に放り投げる
六本木の街を駆け抜け
口にした手ぬぐいを脱ぎ去り
それを道端に放り投げる
東京の街を抜け出し
今までのすべてを脱ぎ去り
スーツに身を固め
口紅をして
面接を受けている
黒ぶちの眼鏡をかけた保守的な面接官はしきりに夢を語る
企業戦士の誕生
前科者となった彼と親友たちに見送られ
歩いていく
長く単調な道
でも毎日力強く歩いた
おかあさん
明日嫁いでいくよ
もう私一人になる
近所の人や妹が来てくれて今日はとても賑やかだったよ
さみしいよ
今日は帰らないで私の手を一晩中握ってくれ
手を握っていると静かに永遠の眠りについた
眠るまでいてほしい
元気よく出かけていくが
もうそこには私はいない